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モローラ ――
台本・演出 ヤエル・ファーバー  出演 ファーバー・ファウンドリィ
いま、世界の演劇界で最も注目を集めている演出家の一人、南アフリカ出身の女性演出家ヤエル・ファーバー。日本でも、その作品の上演が待たれていましたが、いよいよ代表作「モローラ」が、2006年2月に日本で上演されることが決定しました。南アフリカ、欧米をはじめ世界各地で精力的に活動するヤエル・ファーバーに、今回の来日公演に向けて話を聞きました。

質問演劇を始めたきっかけを教えてください。
答え私は、ずっと世の中の「目に見えない」部分、隠された真実というものに惹かれてきました。アパルトヘイト時代の南アフリカに育った私たちのもとには、権力によって様々な形にゆがめられた真実が届いていたのです。けれど、ある時から、現実を求め、真実と嘘を見分けることは、個人の責任となってきたのです。マーケットシアター(当時の南アフリカで唯一の人種混合劇場)でプロテスト演劇を見た時に、10代だった私は、演劇が持っている真実を語る力――見えないものを見えるようにする力――というものに衝撃を受けました。
演劇はまた、儀式的な経験に引きこまれうる場所でもあります。私にとって演劇は、古くから伝わる儀式に参加し、真実を語る機会を与えてくれるものなのです。聖なるものにもっとも私を近づけてくれるもの、それが演劇です。

質問今回上演される「モローラ」はどのようにして生まれたのでしょうか。
答え南アフリカは、長くひどい人権侵害があった後に、「真実と和解」のプロセスを採用した世界でも数少ない国のひとつです。犯罪者が被害者に対面し<恩赦を受けるために自ら犯した罪を告白する>というこの方法が持つ目の覚めるような力に、私は圧倒されました。南アフリカがファシスト国家兼レイシスト(人種主義者)国家から民主主義国家に移行する際、被害者が復讐をするために大量殺人を起こすのではないかと多くの人は心配しました。しかし、このような内乱は起こりませんでした。
私は、人々がいかに復讐の衝動を乗り越えてきたか、復讐についての作品を創ろうと思いました。9.11以降のブッシュ政権の反応と無差別の報復を目の当たりにして、私は南アフリカで目にした抑止する能力というものを感じました。
「モローラ」のもとになっているギリシア悲劇は、復讐についての素晴らしい物語です。暴力には暴力をもって、終わりのない受難の悪循環を永続する、という物語ですから。私は、「目には目を、歯には歯を」という古代からの衝動を最も力強く語ることが出来るのは、復讐に呪われたクリテムネストラとその子供たちのこのアトレウス家の物語だと感じたのです。

質問あなたの母国であり、「モローラ」舞台となっている南アフリカという国について教えてください。
答え私は、このアトレウス家の物語は南アフリカの歴史にとって完璧な例えだと思いました。クリテムネストラは、最初の夫との間の子供たちを父の家の食堂で働く奴隷に変えました――アフリカに降り立ったヨーロッパ人たちの末裔が、もともとの土地の所有者たちをその土地の奴隷に変えたように。
南アフリカは、苦難の歴史を歩んできたにもかかわらず、その苦難を増幅する道を選びませんでした。人々が見せた格別の恩情は、いくつもの「力のある」大国が困難に際し見せることができなかった、精神的かつ道徳上の大勝利でした。被害にあった人々の苦悩を軽んじるつもりはありません。私自身はそのような赦しを想像することすらできませんし、むしろ、私はこのような寛容さを理解するために戦っているので、赦すために必要だった大きな勇気と力を、暗闇の中から明るみに出したかったのです。何百万もの語られることのない物語の中で、赦しが復讐にとって代わった場所、それが私の国、南アフリカです。

質問「モローラ」を通して伝えたいことは何ですか。
答え『モローラ』でクリテムネストラは、審判の場で娘エレクトラに向かい、みずからの罪を告白し恩赦を求めます。この家族の物語と南アフリカの物語が、同時に観客の前で明らかにされます。南アフリカで比較的平和裡におこなわれた民主主義への移行は奇跡的で、そのことが示唆する人間の精神の大きな可能性をこの作品で示したいと思います。私たちは奇跡の国から来ました。私は、ギリシア悲劇のように困難と苦悩をともなう物語を通して、このことを目に見えるようにしたかったのです。

質問「モローラ」では、女性グループが奏でる音楽がとても印象的ですね。
答えンゴコ女性文化合唱団の歌と楽器演奏を聞いたとき、これが古代のコロスだと直感しました。古典のコロスはその社会の智恵を代表しています。コーサ族の音楽は大昔のままのものです。彼女らの「倍音唱法」は、喉の奥深くで声を出し、超自然的な音を出す、喉歌という歌い方です。楽器はとても簡単な材料から作られ、数百年変わらぬ音色を奏でます。これらのコーサ族の伝統は、まさにこの女性たちを限りに消えてゆきます。というのは若い世代はもうこの技術を体得していないからです。皆さんがお聞きになるのは、何百年も変わらずに続いてきて、しかし間もなく消えてなくなる音楽です。この力強い音楽とオレステイア三部作の力強い物語を組み合わせると、物語に最もふさわしい器ができあがります。この音楽なしに、この作品は完成しなかったでしょう。テキスト同様、重要なものです。この音楽がテキストそのものだともいえます。

質問最後に、日本の観客にメッセージをお願いします。
答え私たちは、演劇という古くからある芸術を通して、新たな政治的、精神的、そして心理的な視点をお届けしたいと思います。日本の観客の皆さんに、ほかにはない演劇的な体験をしていただく機会がもてることを大変名誉に思っています。

プロフィール
ヤエル・ファーバー(演出家・劇作家)
ヤエル・ファーバー 南アフリカ出身、35歳。2003年、南アフリカで権威あるスタンダード銀行年間最優秀アーティスト賞受賞。演出、脚本創作を始めたこの10年間に、南アフリカを題材にした作品を多数発表し、その鋭敏な現代性と芸術性の高さにより、国際的に高い評価を得る。
 テンビ・ムチャリ(南アフリカのブルース歌手、女優)との共同脚本による演出作品『ア・ウーマン・イン・ウェイティング(A Woman in Waiting)』は、2002年ロンドンのウェスト・エンドで上演され、スコッツマン・フリンジ・ファースト賞、BBC ゴールド・ソニー賞のベスト・ドラマ賞をはじめとする数々の国際的な賞を受賞。この作品はエジンバラを含むイギリス国内の長期ツアーのほか、チュニジアのカルタゴ・フェスティバル(2001年)、トロントのドュ・モーリエ世界舞台フェスティバル(2002年)、フライング・ソロ世界演劇祭、オタワの国立芸術センター(2005年)などでも上演され、絶賛された。
 また、アパルトヘイト下で無実の罪で死刑宣告されながら刑の宣告を免れたデゥマ・クマーロ*との共同執筆、ファーバーの演出作品『ヒー・レフト・クワィエットリー(He Left Quietly)』(2002年ベルリン・世界文化の家委嘱)もアフリカや欧州(ダブリン、ベルリン、アムステルダム)で高い評価を得た。
 シェイクスピアのジュリアス・シーザーを、アフリカの架空の国を舞台として大胆に翻案して上演した『シーザー(SeZar)』(オックスフォード・プレイハウス製作)で、南アフリカのナショナル・ヴィータ賞の最優秀作品賞、最優秀演出家賞を受賞。イギリス国内でも長いツアーを行い、北アイルランドのベルファースト・クィーンズ・フェスティバルにも招聘された。
 出演俳優との共同執筆、ファーバー演出による『アマジュバ—鳩のように私たちははばたく(AMAJUBA-Like Doves We Rise)』は、エジンバラ・フェスティバルで2004年上演、ヘラルド・エンジェル賞を受賞。ロンドン・バービカン劇場BITEフェスティバルでもチケット完売、その後ウェスト・エンドに進んで好評を博し、英イブニング・スタンダード紙により「悲しみと、より良い将来への希望を見事にバランスよく描いた、感情に訴える、演劇のメモリアル的作品」と評された。その後、オーストラリアのメルボルン・フェスティバルやシドニー、アイルランドのエラガル芸術祭、アメリカ・チャールストンのスポレト・フェスティバルやニューヨークでも上演された。
 ギリシャ悲劇オレステイア三部作に基づく最新作『モローラ』は、南アフリカのナショナル・アーツ・フェスティバルの委嘱により初演、2004年9月にドイツ・ハンブルグのラオクーン・フェスティバルに招かれ、絶賛された。
 南アフリカ国内では、マーク・レイヴンヒル作『ショッピング&ファッキング』でナショナル・ヴィータ賞最優秀演出家賞を初受賞。
 これまでの活動には、リンカーンセンター(ニューヨーク)の演出家ワークショップへの招聘参加、マーボウ・マインズ・シアターカンパニーにおけるレジデンス、ニューヨークのアクセス・シアターにおけるA・フガード作『ハロー・アンド・グッバイ』演出、アメリカ・ユタ州のサンダンス演劇ラボラトリーに招かれての作品執筆など。昨年はロレックスのメンター・プロティジ賞にノミネート。現在は、アパルトヘイト下における死刑囚の伝記をデゥマ・マクーロ本人と共同執筆中。
 近年、ファーバー・ファウンドリーを設立。世界各地で公演を行うとともに、旺盛な作品創作の拠点となっている。


*デゥマ・クマーロ
アパルトヘイト下で無罪の殺人罪で死刑宣告され、その中の3人の死刑が執行されたシャープヴィル・シックス事件の生存者。7年投獄されていたもののから生き残ることができた。現在は、ザ・フォーギヴネス・プロジェクト(The Forgiveness Project)という紛争解決ためのNGO活動に従事する人権活動家として活躍。

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